なぜいなば食品グループは真似されないのか?220年の歴史に学ぶ「独創と挑戦」のDNA

なぜいなば食品グループは真似されないのか?220年の歴史に学ぶ「独創と挑戦」のDNA

ただのヒット商品メーカーではない、いなば食品グループの本質

いなば食品の人気商品
いなば食品グループの人気商品(画像引用元:いなば食品公式サイト)

就職活動中の皆さんにとって、「いなば食品」といえば、猫用おやつ「CIAO ちゅ~る」の会社、あるいはスーパーに並ぶ「いなばライトツナ」のメーカーというイメージが強いのではないでしょうか。

確かに、これらの商品は市場を席巻する圧倒的な存在感を放っており、私たちの生活に深く馴染んでいます。しかし、いなば食品グループの本質を単一のヒット商品だけで語ることはできません。

なぜなら、「CIAO ちゅ~る」の爆発的な成功は、単なる偶然の産物や一発屋のアイデアではなく、江戸時代から220年にわたって脈々と受け継がれてきた、ある「企業DNA」が生み出した必然の結果だからです。

本稿では、1805年の創業から続く「独創と挑戦」という精神性が、いかにして現代の革新を生み出し、そしてこれからのグローバルな成長にどう繋がっていくのかを紐解きます。

指を差す編集部
編集部

これは、これから社会に出る皆さんが選ぶべき「成長し続ける企業の条件」を知る上でも、重要なケーススタディになるはずです。

※当コンテンツはアフィリエイト等を目的として、試供品または取材費をいただいて記事を掲載しています。

伝統にあぐらをかかない。「挑戦者」としての220年

いなば食品グループの歴史は、老舗企業によくある「伝統をただ守り続ける歴史」ではありません。むしろ、時代の変化に合わせて自らの成功体験を破壊し、再構築してきた「挑戦の歴史」です。

200年以上続く企業でありながら、常にベンチャーのような気概を持ち続けている点に、この会社の特徴があります。

創業期からすでに始まっていた「グローバルへの挑戦」

いなば食品の「グローバルへの挑戦」
指を差す編集部
編集部

時計の針を少し戻してみましょう。

いなば食品グループの創業は1805年(文化2年)、初代・稲葉与吉が静岡・由比で海産物商を始めたことに遡ります。その後、1837年(天保8年)には鰹節製造へ進出し、水産加工の基礎を築きました。

特筆すべきは、その視線が創業初期からすでに世界に向いていたことです。幕末から明治という激動の時代にかけて、いなば食品はなんと「生蜜柑(みかん)」の北米輸出に挑戦しています。

現代のように冷蔵コンテナも航空便も整備されていない時代です。日持ちのしない生鮮品を、何日もかけて太平洋の彼方へ運ぶビジネスは、当時としては無謀とも言える挑戦だったはずです。

しかし、リスクを恐れず未知の市場へ挑むこの姿勢こそが、いなば食品の原点であり、現在のグローバル展開の礎となっています。

安定を捨てて掴んだ「次世代の技術」

もう一つの大きな転機は、昭和に入った1936年(昭和11年)に訪れました。

当時、主力事業であった鰹節製造は非常に安定しており、企業の基盤は盤石に見えました。しかし、当時の経営陣はその成功に安住しませんでした。

その象徴的なエピソードがあります。
当時、会社は新しい「鰹冷凍庫」を建設する計画を進めていました。しかし、時代の変化を敏感に察知した経営陣は、その計画を急遽変更し、あえて経験のない「缶詰工場」を建設するという決断を下したのです。

既存の収益源であるビジネスモデルを自ら否定し、将来性のある缶詰事業へ大きく舵を切る。

この「自己変革」があったからこそ、後の大ヒット商品「いなばライトツナ」が生まれ、そして現在のペットフード事業へと繋がる高度な加工技術(レトルト技術など)の基盤が築かれたのです。

なぜ、「ちゅ~る」は生まれ、大ヒットしたのか? その必然性

チャオちゅーるの商品画像
CIAO ちゅ~る(画像引用元:いなばペットフード株式会社公式サイト)

いまや日本のみならず、世界中の猫を虜にしている「CIAO ちゅ~る」。この画期的な商品は、ある日突然生まれたわけではありません。

先述した「挑戦の歴史」と、長年積み重ねてきた「技術の蓄積」が化学反応を起こして生まれたものです。

最大の理由は、猫が好む「圧倒的な嗜好性」と、飼い主とペットのコミュニケーションを生む「新しいおやつ体験」を創出したことにあります。

日本独自の丁寧なモノづくりと、各国の文化に合わせたローカライズ戦略が成功の鍵です。

  • 鮮度へのこだわり:人間用食品と同じ品質基準(ヒューマングレード)の原料を使用。
  • コミュニケーションツール化:「あげる喜び」を可視化したパッケージとCM戦略。
  • 徹底した現地化:世界37カ国以上の嗜好に合わせたフレーバーと品質管理。

人間用食品で培った技術の積み重ね

「ちゅ~る」の最大の特徴である、あの滑らかなペースト状の食感。これは、いなば食品が長年「いなばライトツナ」などの人間用食品で培ってきた、マグロやカツオの鮮度を保ちながら加工する技術がベースになっています。

さらに重要なのは「品質」への信頼です。いなば食品では「ヒューマングレード(人間が食べられる品質)」を徹底しており、「ちゅ~る」も人間用食品と同じ工場、同じ厳しい衛生管理基準で製造されています。

実は、いなば食品グループのペットフード輸出の歴史は古く、1958年にはすでに米国向けの生産を開始していました。

半世紀以上にわたり、欧米の厳しい品質基準に対応してきたノウハウ。それが、他社には真似できない圧倒的な製品力となり、最強の参入障壁となっているのです。

市場の常識を疑う「独創」の精神

いなば食品のちゅーるを食べる猫

「ちゅ~る」が登場する前、猫のおやつ市場は「食べる(栄養補給)」ことが主目的であり、ドライタイプや缶詰が主流でした。しかし、いなば食品グループはそこに「飼い主とコミュニケーションをとる」という全く新しい価値を持ち込みました。

スティックから直接あげることで、猫と飼い主の距離が縮まる。おやつの時間が、単なる食事から「愛猫との触れ合いの時間」へと変わる。

指を差す編集部
編集部

「既存の常識にとらわれず、新しい価値(体験)を創造する」。
これは、かつての生蜜柑の輸出や缶詰工場への転換と同じく、同社に根付く「独創」の精神そのものです。

模倣困難な企業文化:「真似しない、真似されない」

「ちゅ~る」の世界的ヒット以降、多くのメーカーから類似商品が登場しました。

しかし、それでもなお、いなば食品グループの優位性は揺らいでいません。なぜなら、競合他社はパッケージや形状といった「商品」を真似できても、その背景にある「哲学」までは真似できないからです。

現場に根付く「挑戦」の風土

いなば食品の現場に根付く「挑戦」の風土

いなば食品グループには「真似しない、真似されない」という明確な行動規範があります。これは単なる壁に飾られたスローガンではなく、開発現場の共通言語として機能しています。

「天然・自然・本物」にこだわり、安易な化学物質や保存料に頼らない実直な開発姿勢。

そして、若手社員であっても新しいアイデアを提案し、実行できる環境。

たとえ失敗したとしても、前例のない挑戦であればそれを評価し、上司が後押しする文化。

指を差す編集部
編集部

こうした組織風土があるからこそ、社員一人ひとりが「次はどんな新しいものを生み出そうか」と自律的に考え、次々と新しいイノベーションが生まれるのです。

いなば食品グループは、未来においても「挑戦者」であり続ける

ここまで見てきた通り、いなば食品グループの強みは、「CIAO ちゅ~る」という特定のヒット商品にあるのではありません。

220年間途切れることなく続いてきた「現状を変えることを恐れない姿勢」、すなわち「独創と挑戦」のDNAそのものにあります。

そう考えれば、「CIAO ちゅ~る」の成功も、彼らの長い歴史の中では一つの通過点に過ぎないのかもしれません。

いなば食品は今、海外売上の拡大を目指し、世界市場というさらに広大なフィールドへ進出しています。そこで次はどんな「独創」を見せてくれるのか。そして、これから入社する皆さんが、その新しい歴史をどう創っていくのか。

指を差す編集部
編集部

歴史とは、ただ守るものではなく、超えていくための記録です。いなば食品には、自分の可能性を世界で試したいと願う人にとって、最高にエキサイティングな舞台が用意されています。